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今週のマティチョンから(20170825-31号)

  • Plaadipbkk
  • 2017年9月1日
  • 読了時間: 7分

ジンラック元首相国外逃亡という新展開があったため、判決当日(8月25日)に発売されたこの号は、ほぼ意味を失った感がある。しかし、一応決めたことなので、記事要約はやることにする。(ぐずぐずしているうちに新しい号の発売日になってしまったが)

大見出しは、

「判決は新しい事態の始まりにすぎない」

とでも訳しておく。見出し記事では、2017年憲法の196条を引用して、最高裁政治案件特別法廷での判決後、最高裁全体会議への「上告」が可能であると指摘、どういう判決がでても被告、検察側のどちらが、再審理を申し立てるだろうと観測を述べている。

再審理の申し立てがあった場合、最高裁全体会議が審理し、申し立てに根拠があると判断した場合には、今回の審理に加わっていなかった裁判官を9人選んで、再審査を行わせる。また、2017年改正憲法では、再審査を申し立てる根拠として、事実認定に関するものだけではなく、法律解釈の再審査も求められるようになったので、再審へのハードルは低くなったのだとという。

この196条を理由に、法廷闘争が長期化するであろうというのが、見出し記事のトーンだが、さすがにタイ誌の社説だけあって、ジンラック氏が国外逃亡する可能性もあわせて指摘している。(世論を2分する重要事件の被告の国外逃亡が容易に可能だというのは、日本では考えにくい話だが、タイはそういう可能性が常にある国なのである)

ジンラック氏が逃走した場合、現政権や反タクシン勢力に、「有罪がまぬかれないことを知っているから逃げたのだ」と攻撃する材料を与えることになるが、兄のタクシン首相が汚職事件の判決前に海外へ逃亡しても人気が衰えなかった例をあげて、ジンラック氏が亡命した場合でも、判決が政治闘争に終止符を打つことはないだろうと分析している。

結果的に見れば、8月4日~10日号でマティチョン誌の見出しがほのめかしていたように、ジンラック氏は、判決を避けて亡命した兄のタクシン元首相と、まったく同じ「運命」をたどることになったわけだ。

以下、マティチョン誌の情報ではないが、事実関係を記しておく。

8月25日、約束の出廷時間(午前9時)になってもジンラック氏は法廷に現れず、弁護士を通じて、メニエール病の発作で出廷できない伝えてきた。医師の診断書も無いこの申し立てを、裁判所は根拠薄弱とみて、逃走の意図があるとしてとジンラック氏への逮捕状を出した。被告不在のため、判決の読み上げは9月27日に延期された。

関連事件の「政府間米売却事件」の判決は46人の被告が出廷し、主犯のブンソン元省務大臣に懲役42年が申し渡されるなど、被告側に厳しい判決が出された。被告側は、再審査の請求をしているが、非常な長期刑であるためか、逃亡の恐れありとして保釈は認められていない。

NHKは、赤シャツ側(タクシン派)の主張として、「ジンラック氏の逃亡は軍政が手引きした」と報道している。真偽を確認する手立てがないが、ジンラックの国外逃亡が現政権にとって最も都合の良いシナリオだったことは間違いないだろう。一方、ジンラック氏への判決を契機に政治闘争を再組織しようとしていたタクシン派側にとっては当面、運動を再建するテコを失った形となった。

バンコクポストなどの報道によると、ジンラック氏は23日に、支持者へのメッセージを書いた後、バンコクの自宅からンボジア国境に近い、チャーン島に向かい、そこからヘリコプターでプノンペンに脱出して、シンガポール経由でドバイいりしたという。既にイギリスで亡命申請をしたという情報もある。通信社ロイターによれば、ドバイのVIP用住宅街にあるタクシン氏の邸宅で兄と合流したという情報があり、取材しようとしたロイターの記者がドバイ当局に阻止されたという。

ジンラック氏がFacebookによせた最後のメッセージには、安全上の理由から裁判所に来ないように支持者に呼びかけた後、「今回の警備は特別で、以前のように、お会いしたりできませんから」と綴り、今思えば、出廷しないことをほのめかしてたようにもうかがえる。

いずれにしろ、法廷闘争を徹底的に戦うと宣言し、判決直前の23日には、いい判決が出ることを祈って、お寺でお布施をするパフォーマンスなどしていただけに、今回の逃走劇は、タイのプレスにも驚きをもって受け止められたようだ。9月1日現在、ジンラック氏の居所に関する確報はでていないし、本人による声明もでていない。

右上の小見出しは、

 「プラユット首相 民意を獲得 コラートでイサンの心を奪う 

  “軍はうそをつかない”と決めセリフも」

コラート(ナコンラチャシマー)はイサン(タイ東北部)の中心都市。イサン地区にはタイの全人口の約4割が暮らし、タクシン派(ジンラック、赤シャツ。タイ貢献党)の一大支持基盤でもある。8月25日のジンラック氏への判決日をまじかに控え、同20日から21日にかけて、プラユット首相が移動閣議をこの地で開き、あわせて、東北地区の水害状況などを視察、イサンの農民に直接語り掛けて、軍政への支持獲得を狙ったのだという。

今回のイサン行きには、ジンラック判決を巡る政治的混乱を抑止する意味があるが、もうひとつは、軍政への支持率が、若干、下降気味であることが背景ににありそうだ。世論調査「クルンテープポール」によれば、クーデター2年後の調査で、国民が軍政につけた点数は6.19、3年目の今年は、5.83に下がっている。経済、安全保障、外交などの重要項目だけに限れば、5.27まで点数は下がる。

そこで、プラユット政権は、内政の安定に関しても、将来の選挙でもカギを握っているイサンの農民たちの支持獲得に本腰を入れ始めた。今回のイサンでの移動閣議に手土産として持参したのは、治水対策348プロジェクトに88億バーツ、高架電車の建設に26億バーツ、有機農業普及のための185プロジェクトに14億バーツなど。総計120億バーツの投資計画を認可したのだという。

結果として、軍政の硬軟とりまぜた懐柔策は成功したようで、25日の判決日には、予想より少ない支持者しか裁判所にあつまらず、挙句の果てに、ジンラック氏は判決を聞くこともなく敵前逃亡した。タクシン派は、選挙までの戦略を練り直さざるを得ない状況に追い込まれており、ここまでは、「軍政完勝」の感がある。もし、かりに、ジンラック氏の国外逃亡が現政権の「根回し」の結果であるとすれば、それはある意味、「見事な手腕」と言わざるを得ないだろう(私見)

次は「今週の埋め草」(笑)この間、スコセッシの「沈黙」(遠藤周作原作)がタイで公開されたことに驚いた・・・という内容の投稿をしたが、今度は、マティチョンに映画評が載っていた。評者はデザイン関係の人らしい。(フェイスブックを除くと相当な中国派の左翼のようだが)映画もよく見ていて、まずスコセッシの「ミッション」という、やはり宣教師をテーマにした作品から書き起こす。

「ミッション」の宣教師はポルトガル皇帝の命を受けてアマゾンの奥地に派遣されるが、最後は原住民とともに、帝国主義に反抗して立ち会がる。「沈黙」はそういう単純な構図の映画ではなく、弾圧者として出てくる大名や、審問者も本当の意味での悪人ではないと述べる。

アメリカや欧州での批評では、帝国主義の先兵としての宣教師の役割などはほぼ素通りして、ロドリゲスに「踏み絵を踏め」とささやいたのは、神の声か、悪魔の声か、それとも内心の声か等々・・・宗教的な解釈を議論するのだが、(その時鶏が三度鳴いた・・・とかなんとか)、この評者はそこは素通りして、「沈黙」のテーマを、現代のパレスチナやイラク、シリアの状況にひきつけている。

外から来た人間が、暴力や、「理」の力をもって、その土地に従来からある信仰や思想を変えることの難しさを述べ、またそのような行為の結果として、「今、キリスト教が歴史的に最も敵意をもって見られる時代となった」というキリスト教徒の友人の言葉を引いたりもする。自分たちが「正常」と思っていることでも、外部から見れば「狂信」とみられることもあるのだ・・云々とも。

ま、タイのインテリならば、当然、こういう見方をするでしょうな。という意味で得心が行った。

では

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