マティチョンの見出しから(20170811-17号)
- somsak7777
- 2017年8月15日
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大見出しは「トゥーおじさん、頑張れ」
先ごろ、故ラマ9世王、皇太后、現国王陛下の功績を称える植樹行事のおり(タイの皇室は森林保全に関心が深い)、プラユット首相がスピーチをした。その時、期せずして聴衆から巻き起こったコールだという。
「ルントゥースースー」
トゥーはプラユット首相の愛称。頭についたタイ語ルンは父母の兄を言う。日本語だと「伯父」だが、身近な年上の人を呼ぶときの一般的な敬称としても使われる。ベトナム人がホーチミンを「ホーおじさん」と呼ぶのと同じ・・とまではいわないが、親愛の情が込められた呼び方である。スーが「 頑張れ」で、スポーツの応援などによく使われる言葉。
マティチョン誌の巻頭言によれば、各機関の世論調査でプラユット首相の支持率が思わしくないという。数字を挙げての指摘ではないが、政府支持への誘導的な調査でも、経済面での不満と、汚職に対する批判が強くなってきていると指摘する。(マティチョンバイアスを差し引いて言えば、それなりの支持率はあるが、一部の回答が国民の不満を示唆している・・・ということだろうと推察される)
現クーデター政権は、民選政府の腐敗・汚職を糺すとして権力を掌握しただけに、政府が腐敗しているとみなされれば、タイ独特の「民主的価値観」に依ってすら、統治の正当性にクエスチョンマークが付けられかねないわけだ。
話をもとに戻すと、そんな中、前述の植林イベントでのスピーチで、いつも強気なプラユット首相が思わず弱音を吐いたというのである。
クーデター後、首相になって以来、米国、欧州連合、オーストラリアといった人権重視の国への首相の公式訪問が実現していない。通商関係は平常通りだし、政府間協力等も普通に行われ、内閣の民間大臣が他国に招かれることもあり、首相自身も国際会議などの際には外国を公式訪問している。しかし、西欧の主要先進国から首相が公式に招かれたことはないのである。
これに対して、プラユット首相は「私が国家平和秩序委員会(ありていに言えば「クーデター団」だが)の長でもあるから招かれないのだ。私は、国内をまとめるだけでもいいのだが、少しは私の気持ちも考えてほしい」と冗談ぽく述べたとき、会場から沸き起こったのが「トゥーおじさん、頑張れ」の声援だったというわけだ。
だがここに来て、プラユット首相に朗報があったとマティチョン誌は書く。先の8月8日、米のティラソン国務大臣がタイを訪れ、プラユット首相と会談した。タイ外務省スポークスマンによれば、会談では同盟関係の緊密化が確認されたほか、米側が重ねて、首相のワシントン訪問、首脳会談の早期実現を希望したという。外務省は、会談の時期は「交渉中」と慎重だが、プラユット首相自身が、ワシントンでの首脳会談は10月に開催されるだろうと述べており、かなり前のめりな印象だ。
右上小見出し
「汚職委員会、黄シャツと赤シャツの板挟み
両派からやり直せと圧力」

これは先の8月2日最高裁の特別法廷で無罪判決が出た、黄色シャツのデモ鎮圧裁判に関する続報。
9年前の2008年10月、タクシン派政権の成立を阻止するため黄色シャツ派が国会を包囲した。デモ隊を強制排除する際、警察側の催涙弾の使用などで、デモ隊側の一人が死亡、多数が負傷する。汚職撲滅委員会は、強制排除のあり方に問題があったとして、最高裁の特別法廷に、当時の首相、副首相、国家警察司令官、バンコク首都警察司令官を訴えていたが、このたび、被告全員に、無罪の判決が下されている。
この判決に対して、黄色シャツ側の運動体「民主主義のための市民連合」が本件の起訴主体である汚職撲滅委員会に対して、「上告」するように嘆願書を提出した。最高裁特別法廷の政治案件は一審制が原則だが、公訴側、被告側ともに、判決に不満があれば、最高裁全体会議に対して、判決の再審査を求めることができるのだという。
一方、7年前、首都中心部を長期間占拠して、強制排除された時、デモ隊側に多数の死者を出した赤シャツ(タクシン派)側も、ライバルグループへの判決を受けて新たな動きを見せている。
当時、タクシン派デモ隊が武装しているという情報が流れ、軍による強制排除では実弾が使われた。ために、赤シャツ側の死者数は黄色シャツと比べて桁違いに多かったが、汚職撲滅委員会は証拠不十分を理由に、当時の政権(民主党政権)関係者の起訴を見送ったのである。
委員会側は不起訴案件を新しく取り上げるには、重要性の高い新証拠の存在が必要としているが、赤シャツ側は、軍内部の資料など、充分な新しい証拠があるとして、委員会に訴追を求める構えだ。
しかし、マティチョン誌の記事は「板挟み」としているが、現在のパワーバランスからすれば、汚職撲滅委員会は、黄色シャツの主張も、赤シャツの要求もあっさりと却下するのではないか。「板挟み」というよりも、委員会は判決によって両者を「公平に」退ける根拠を得たのである。(私見)
見出しとは関係ないが、25日に判決が出る「米質入れ制度裁判」に関する分析記事があった。以下のような点を指摘している。

「米質入れ制度」は35年間歴代政権が維持してきたもので(アピシット政権時代に短期間、最低価格保証制度が導入された時期を除く)、2006年タクシン元首相を追放したクーデター後の政権でさえ同政策を継承している。
「質入れ制度」は、もともとはコメの収穫期に、手元資金に余裕のない農民が米を売り急いで米価が暴落することを防ぐための予防的な政策措置であった。タクシン政権以降、米の価格を吊り上げるために利用されるようになり、米の買い入れ量(市場価格より高く「質入れ」するため実質上の買い入れとなる)も飛躍的に多くなり、それに伴い財政支出も急増した。
タイ貢献党は2011年の総選挙で「米1トンを15000バーツで質入れする」ことを公約に掲げたが、これは世界的な米不足の年(2008年)の米価を基準にしたものだった。タイ貢献党が政権獲得後、実際には米(籾ベース)は1トン11,000バーツ~12,000バーツで農民から引き取られたが、2011~12年期の市場価格はトン当たり7,000~8,000バーツだったため、農民は31~38パーセントの余剰所得を得たとされる。タイ貢献党は、この政策で8000億バーツが農民家計に入ったと主張している。
タイ貢献党の政策がどの程度の財政赤字につながったかは不明だが、他国の農業政策を見ても、農業保護が財政的に黒字をもたらすことはあり得ない。効率的な制度運営により、どれだけ赤字を減らせるか、あるいはどの程度の赤字が許容できるかという問題である。
従って、仮に「質入れ制度裁判」で同制度が赤字を出したこと自体が「違法な職務の行使」とされるのならば、「質入れ制度」「最低価格保証」「農業補償金」等々、どういう形態での農業保護政策も不可能となる。政策実行者は、訴えられれば罪に問われるリスクをとってまで、これらの政策を導入しようとはしないだろう。
以上のような指摘である。
上のような判決が出たら、日本の食管制度なども違法とされるのだろうな。私見だが、税金をどう再分配するかは、国民的な合意をもってなされるべき問題であり、具体的な汚職案件への関与がないのならば、司法が介入する余地はないのではないか?また「国民の合意があるか否か」は選挙を通じて国民に問うしかないだろう。
それから、この「質入れ制度」の記事、前々から疑問であったことを明確に書いてくれた良い文章だったが、現在の政権が、どういう農業保護政策をとっているかに触れていれば、記事にもっと説得力が出たのではないか?
では
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